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150 years of Nature anniversary articles

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気候科学:厳しい気候目標のための残された炭素予算の見積もりと追跡

過去十年間に報告された研究によって、地球温暖化が大気中に放出された二酸化炭素の総量にほぼ比例することが示されてきた。これにより、残された炭素予算、つまり平均気温の上昇をパリ協定で定められた限界内に抑えながら、大気中にまだ放出できる人為起源の二酸化炭素の総量を見積もることが可能になる。しかし、これまでに報告されている残された炭素予算の見積もりは幅が大きく、パリ協定と一致する排出削減目標を定める手段としての有効性は低い。本論文では、残された炭素予算の見積もりを追跡し、こうした見積もりが科学的知識の進歩とともに、経時的にどのように改善し得るか理解できるようにするための枠組みを提示する。この枠組みを適用すれば、残された炭素予算の見積もりの相違を整合するのに役立ち、将来の見積もりの範囲における不確かさを減らすための基礎が得られる可能性があると、我々は提案する。

原文:Nature (2019-07-17) | doi: 10.1038/s41586-019-1368-z | Estimating and tracking the remaining carbon budget for stringent climate targets

エピジェネティクス:エピジェネティクス研究の進歩は遺伝学を環境および疾患に結び付ける

エピジェネティクス研究は21世紀になって急速に拍車が掛かり、興奮や希望がもたらされているが、そうした興奮や希望には正当なものだけでなく、誇大なものも含まれている。今回我々は、この分野が過去数十年にわたってどのように発展してきたかを概説し、生物学に関する我々の理解を変えつつある最近のいくつかの進歩について検討する。エピジェネティクスとDNA塩基配列の変動との間の相互作用に加えて、細胞の記憶や可塑性に対するエピジェネティクスの影響についても論じる。また環境と、世代間の、および経世代的なエピジェネティックス伝達が、生物学的性質や疾患、進化に与える影響についても考察する。さらに、ヒトの健康に関連するエピジェネティクスの新領域をいくつか紹介する。

原文:Nature (2019-07-24) | doi: 10.1038/s41586-019-1411-0 | Advances in epigenetics link genetics to the environment and disease

神経科学:記憶の編集はSFから臨床実務へ

不都合な記憶の書き換えというSF的な概念が、固有記憶の編集を可能とする技術の出現によって現実のものになろうとしている。本論文では、精神病理学的治療の改善に重点を置いて、記憶編集研究を概説する。さまざまな研究によって、記憶が影響を受けやすい局面として、初期の保存(すなわち「固定」)と検索後の再保存(すなわち「再固定」)の2つが浮き彫りになっている。それぞれの段階で記憶を修正できる技術が見いだされているが、そうした方法を動物モデルからヒトへと橋渡しするのは困難で、臨床治療に組み込んで得られる恩恵は一貫していない。記憶編集の科学はSF以上に複雑で微妙なものであるが、その急速な発達は将来的応用への期待を抱かせる。

原文:Nature (2019-07-31) | doi: 10.1038/s41586-019-1433-7 | Memory editing from science fiction to clinical practice

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2019.191128