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2次元エキゾチック材料の理論にノーベル物理学賞

左からマイケル・コステリッツ、デビッド・サウレス、ダンカン・ホールデン。 Credit: RONI REKOMAA/AFP/Getty Images; TRINITY HALL, UNIV. CAMBRIDGE; EDUARDO MUNOZ ALVAREZ/AFP/Getty Images

2016年のノーベル物理学賞は、2次元材料における奇妙な状態「トポロジカル相」を理論的に説明した英国生まれの理論家デビッド・サウレス(David Thouless)、ダンカン・ホールデン(Duncan Haldane)、マイケル・コステリッツ(Michael Kosterlitz)の3名に贈られる。

彼らが1970~1980年代にかけて行った研究は、材料の表面や薄膜層の内部における奇妙なふるまいを予想したり、実験家が発見した現象を理論的に説明したりするための基礎となった。こうした現象の中には、極薄の材料中での超伝導(電気抵抗なしに電流が流れる現象)や磁性なども含まれている。受賞が決まった直後にノーベル委員会によるインタビューを受けたホールデンは、自分たちの数学的理論は当時は極めて抽象的なものだったと言い、今回の受賞に「非常に驚きましたが、大変嬉しく思っています」と語った。今日の物理学者たちは、同様の状態を次世代のエレクトロニクスや量子コンピューターに応用する方法を模索している。

サウレスとコステリッツによる画期的な研究は、彼らがバーミンガム大学(英国)に所属していた時期に始まった。2人は、当時の通説に反して、薄層材料も低温で超伝導状態になり、高温になるとそれが消失することを理論的に示した。また、温度の上昇により超伝導状態が消滅する機構についても説明した。この機構は2人の頭文字をとり「KT転移」と呼ばれており、現在ではさまざまな2次元材料に当てはまることが分かっている(同時期に同様のアイデアを提唱したウクライナの物理学者ベレジンスキーの頭文字を加え「BKT転移」とも呼ばれる。ベレジンスキーは1980年に死去)。

サウレスは、1982年には「量子ホール効果」と呼ばれる奇妙な現象も解き明かした。薄膜中に閉じ込められた電子を絶対零度に近い温度まで冷却し、強い磁場を印加すると、薄膜のホール伝導度は磁場の増加とともに階段状に大きくなっていく。この現象についてサウレスは、トポロジー(位相幾何学)という数学的概念を用いて考察した。トポロジーでは、図形に切れ目を入れることなく連続的に変形していったときに保たれる性質について議論する。輪になっている紐に結び目があるとき、紐を切らないかぎり結び目が消えてなくなることはないように、トポロジカルな性質はよく保たれる傾向がある。加えて、その変化はなめらかには起こらず、不連続に起こる。サウレスは、量子ホール効果が、そうしたトポロジカルな現象であることを示した。

ホールデンは、鎖状に連なった磁性原子にトポロジーの概念を適用した。こうした原子はスピンという量子的特性を持っているが、ホールデンは1982年に、ある種の原子鎖はトポロジカルな性質を持つため、鎖端のスピンが1/2になると予想した。この量子的特性は、個々の原子ではなく原子鎖全体の集団的な挙動に依存しているため、近年、情報をコード化するロバストな方法として、同様の現象が量子コンピューティングの分野で利用されている。

ケンブリッジ大学(英国)の理論物理学者Nigel Cooperは、「トポロジーの概念が、それまで理解されていなかった新しい形の物質を生み出せることを、彼らはそれぞれ異なる方法で示したのです」と言う。

3人とも現在は米国の大学に所属している。サウレスはワシントン大学(シアトル)、コステリッツはブラウン大学(ロードアイランド州プロビデンス)、ホールデンはプリンストン大学(ニュージャージー州)だ。賞の半分はサウレスに贈られ、残りの半分はコステリッツとホールデンが分け合うことになる。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161208

原文

Physics of 2D exotic matter wins Nobel
  • Nature (2016-10-06) | DOI: 10.1038/nature.2016.20722
  • Elizabeth Gibney & Davide Castelvecchi